ジョブ型雇用論の白熱と着地点 Part1
《流行るジョブ型の議論》
ジョブ型雇用の議論が白熱している。
昔から議論自体はあったが未曾有のコロナ渦で一気に表舞台に躍り出た形だ。
各種メディアではキラキラとしたジョブ型雇用を前面押しされていた。
少し時間を経て、最近では一時のジョブ型信望論一色といった状況は過ぎ去り、少し冷静な層も入ってきたようだ。
『ジョブ型がどのような社会課題を解決するものなのか』に着目した建設的な議論が形成されてきているように見える。
ジョブ型雇用の議論が活発になっている一方、実際にジョブ型雇用の人事制度を導入した、あるいは導入に舵を切ったと発信する日本の大手企業も増えてきている。
日立製作所、資生堂、富士通、KDDIなど、日本を代表する企業の面々だ。
《ジョブ型雇用とは何か?》
ジョブ型はメンバーシップ型の対比として議論されることが多いが、そもそもジョブ型とは何なのだろうか?ざっくりとした結論から言うと、次の通りとなる。
•ジョブ型は仕事を起点に労働の在り方を組み立て運用すること(=成果がベース)
•メンバーシップ型は社員を起点に労働の在り方を組み立てて運用するのこと(=育成がベース)
ジョブ型は、仕事起点。企業活動に必要なタスク(=課業≒業務≒仕事)がまずあって、それぞれ関係深いタスクがジョブ(=職務)という単位に括られる。よくジョブディスクリプションや職務記述書と耳にされることもあるかと思う。そのジョブに対して主に知識・経験・技量・資格の面で適任者を社内外から探し出して配置する。一方で、環境変化を受けてそのジョブが企業に必要なくなった場合、そこに従事していた人材は組織の中や外で次の職を探すことになる。
ジョブ型は個人と企業との関係性が契約的・成果ベースに成り立っているとも解釈できる。
一方メンバーシップ型は、人起点。企業は家族であり社員はその構成員である。社員は得意分野に応じた仕事を与えられたり、今は得意とは言えないが今後の期待を込めて挑戦的な仕事を与えられたり、指導育成と適材適所をベースにした生産活動が行われる。社内においてその仕事の存在意義がなくなっても、基本的には人に対して新たな仕事が用意されることになる(ひどいところになると存在意義の薄くなった仕事でもそのまま続けてもらっているという実態もあるだろう)。
メンバーシップ型は個人と企業との関係性は長期的・育成ベースで成り立っているとも解釈できる。
《これまでの日本企業はメンバーシップ型?》
現在の日本企業の状況はどうだろうか。
冒頭で日立製作所、資生堂、富士通、KDDIなどがジョブ型を採用し始めていると書いた。
本記事執筆時点では概ね次のような状況であるようだ。
•日立製作所:2020年時点ではトライアル導入中で、2021年3月に全職種へ展開予定
•資生堂:2021年1月から約3,800名へ導入予定
•富士通:管理職約15,000名に導入済みで今後一般社員全員へ展開予定
•KDDI:約13,000名に対して既に導入済み
これらがニュースになるくらいなので日本はメンバーシップ型が主流であってジョブ型という新しい枠組みとして採用され始めた、と捉えることができる。
歴史的に捉えてみても、かつて米国の経営学者ジェームス・アベグレンが分析したように日本の高度経済成長を支えた日本的経営「三種の神器」として有名な「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」といわれるようにメンバーシップ型雇用が主流となっていた。
高度経済成長の時代もとうの昔に終わり平成から令和へと時代は移り変わっている。今でこそ「終身雇用」という言葉は古臭く聞こえるが、それでも尚、大手企業を中心にこの精神やシステムは残り続けている。
また「終身雇用」それ自体が悪であるということでもない。企業が何を大切にし、どのような選択をしたかというだけの話である。例えば近年の日本の代表的ネット企業であり、終身雇用にこだわりをもつサイバーエージェントの代表藤田氏の言葉に『人材が先、事業は後』というものがある。人の可能性を信じるという企業経営において大切にしたい理念が伝わってくる言葉だ。
《黒船企業GAFAの日本法人はジョブ型なのか?》
海外から日本へ進出してきた企業ではどのような人事システムが運用されているのだろうか。GAFA各社(Google、Amazon、Facebook、Apple)の日本法人について、それぞれ人事制度を調査・要約してみると概ね次のようになった。
•ジョブ定義がありそれらのジョブの中に成熟度や責任度合いなどのレベル設定がある
•さらにそれぞれのレベルには報酬レンジの設定がある
•ジョブレベルに対する評価の機構があり、上司評価あるいは、360度評価で評価される
•評価者の評価結果の甘辛調整をする機構を備えている組織(上司に一任という組織もある)
•評価者がピープルマネジメントに意欲的か否かで昇進者が出やすい部署と出ない部署に別れる
•ジョブ評価の他に、コンピテンシー評価や目標管理のような成果・実績評価がある
•報酬はベース給、ボーナス、Restricted Stock Unit(RSU=制限付き株)、福利厚生
欧米流のジョブを中心とした雇用機構と、日本の文化であるメンバーシップ型を絶妙に調和させているように見える。
《Part1まとめ》
日本国内の雇用システムについて、これまで見てきたことを一旦纏めると次のようになる。
•日本企業は、メンバーシップ型からジョブ型の適用を考えている転換期
•海外企業の日本法人はジョブ型に加え、メンバーシップ型のエッセンスを組込み日本に順応させたうえで運営中
では、これから日本ではどのような雇用システムに変化していくのだろうか。
続きは次回のブログにて掲載します。
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